薬剤師として働きたくないと感じるのは、甘えではありません。
辞めるかどうかを決める前に、何に疲れているのかを切り分けることが、後悔しない選択への近道です。
実際、薬剤師の約半数が「辞めたい」と思った経験を持ち、理由の上位を職場の人間関係が占めています。
「6年間学んだのに」
「奨学金も残っているのに」
と身動きが取れなくなるのは、それだけ真剣に向き合ってきた証拠です。
この記事では、薬剤師として働きたくない原因を
・今の職場
・薬局や病院などの業態
・仕事そのもの
・心身の消耗
の4つに分ける方法と原因ごとの次の一手を解説します。
奨学金や親への説明、免許の扱いといった「辞められない理由」を軽くする制度も紹介するので、ひとりで抱え込まずに読み進めてください。
読み終えるころには、今週やることと今は決めなくていいことが整理できます。
薬剤師として働きたくないなら、辞める前に原因を切り分ける

ここでは、記事全体の結論をお伝えします。
働きたくない気持ちは甘えではなく、辞めるか耐えるかの二択で考える必要もありません。
原因を切り分け、外の職場と比べてから決めるのが、後悔しにくい順番です。
薬剤師として働きたくない気持ちは甘えではない
薬剤師として働きたくないと感じるのは、甘えではありません。
同じ気持ちを経験した薬剤師は、およそ2人に1人の割合でいます。
薬剤師を辞めたいと思ったことが「よくある」14%、「たまにある」32%で、合わせて46%にのぼったアンケート調査もあるくらいです。
辞めたい理由の1位は「上司との人間関係」の15%、
2位は「同僚との人間関係」の13%です。
理由の上位が職場の人間関係である以上、つらさの原因を性格や根性だけに求めるのは無理があります。
甘えかどうかで悩むより、何がつらいのかを見極めるほうが次の行動につながります。
自分を責める時間を、原因を言葉にする時間に置き換えてください。
辞めるか?耐えるか?の二択で考えなくていい
選択肢は「辞める」と「耐える」の2つだけではありません。
休む、
働く量を減らす、
職場や業態(調剤薬局、病院、ドラッグストア、企業といった働く場の種類)を変える
など、その間にある選択肢のほうがずっと多くあります。
業態が変われば、患者対応の量や勤務時間、求められる役割も大きく変わります。
二択で考えると、辞める決断は重く、耐える選択は苦しいままです。
その結果、どちらも選べずに消耗だけが進みます。
合わなければ戻せる小さな変化から試すのが、判断の負担を減らすコツです。
原因がわかったら、外の職場と比べてから決める
原因が見えたら、今の職場と外の職場を比べてから決めてください。
比べる材料がないまま辞めると、移った先で同じ悩みを繰り返す危険があるからです。
多くの人が同じ業態の中で職場を選び直しているため、職場ごとの違いを見極める力が結果を左右します。
出典:厚生労働省「第12回 薬剤師の養成及び資質向上等に関する検討会 資料2」
見極めに欠かせないのは、求人票に載らない人員体制や残業の実態を知ることです。
転職エージェント(求職者と採用したい職場を仲介し、求人紹介や条件交渉を無料で代行するサービス)を使えば、こうした情報を辞める前に集められます。
具体的な使い方は、後半の章で詳しく解説します。
薬剤師として働きたくない原因は、4つのどれかに当てはまる

薬剤師として働きたくない原因は、
「今の職場」
「業態の仕組み」
「薬剤師の仕事そのもの」
「心身の消耗」
の4つのどれかです。
チェックリストで当てはまる原因を確かめてから、それぞれの特徴を読み進めてください。
最後では、「向いていない」と自分を決めつける前に知ってほしいデータを紹介します。
チェックリストで当てはまる原因がわかる
下のチェックリストで、いちばん強く当てはまる項目を選んでください。
複数に当てはまる場合は、つらさの比重が大きいものから読むのが近道です。
- 特定の上司や同僚、店舗の忙しさがなければ続けられる → 今の職場
- どの店舗でも、接客の量や数値目標、夜勤がつらい → 業態の仕組み
- 調剤や監査(調剤された薬が処方どおりかを最終確認する作業)という業務自体に関心が持てない → 薬剤師の仕事そのもの
- 休日も回復せず、何をしていても気力がわかない → 心身の消耗
4つ目に当てはまった人は、ほかの項目より先に「休む」の章を読んでください。
当てはまる項目が見つからない場合も、4つの説明に目を通すと原因の手がかりが見つかります。
迷ったときは、「この人やこの店舗がなければ続けられるか?」と自分に問いかけるのが有効です。
今の職場が合っていない
人間関係や店舗の忙しさが中心なら、原因は薬剤師の仕事ではなく今の職場にあります。
業態はそのままで職場を変えれば、状況が大きく変わるタイプです。
薬局は数人の薬剤師と事務員で回す小さな職場が多く、1人との関係がこじれるだけで毎日の負担が跳ね上がります。
同じチェーンでも、店舗によって処方箋の枚数や人員配置がまったく違うのは珍しくない話です。
店舗異動の希望が通る会社なら、社内で環境を変える方法もあります。
異動が難しい場合は、外の職場と比べる段階に進んでください。
職場の変え方は、「次の一手」の章で具体的に紹介します。
業態の仕組みが合っていない
どの店舗に行っても同じことがつらいなら、原因は業態の仕組みにあります。
職場を変えても解決しにくく、業態ごと変えるほうが近道です。
病院では夜勤や当直、勉強会が負担になり、調剤薬局では処方箋が集中する時間帯の待ち時間対応が重くのしかかります。
原因が業態にあるかを確かめるには、別の業態で働く知人の話を聞くのが早道です。
「人は好きなんだけど、販売目標だけがつらい」と1つに絞れれば、移る先もはっきりします。
業態ごとの違いは、「次の一手」の章の比較表で確認できます。
薬剤師の仕事そのものが合っていない
調剤や患者対応という業務自体に関心が持てないなら、原因は薬剤師の仕事そのものです。
この場合は、薬の知識を別の形で使う企業の仕事や薬剤師以外の仕事が選択肢に入ります。
ただし、企業で働く薬剤師は令和6年末時点で34,184人と、2年前より2,902人減っています。
企業に移れば楽になるとは限らず、求人の枠も広がっていない点は知っておいてください。
苦痛なのが特定の場面だけなら、職場や業態の問題である可能性が残ります。
結論を急がず、ほかの3つと照らし合わせて判断してください。
何をしても辛いほど消耗している
休日も回復せず、何をしても気力がわかないなら、原因は職場や仕事より先に心身の消耗です。
この状態で、退職や転職といった大きな決断をするのは避けてください。
情緒的消耗とは、仕事で感情を使い果たし、何に対しても力が出なくなる状態で、バーンアウト(燃え尽き症候群)の中心となる症状です。
出典:日本保健医療行動科学会雑誌「薬局薬剤師のバーンアウトに関連する要因の検討」
同じ研究では、対人関係のストレスや上下関係、薬剤部門の業務体制が消耗と関連していました。
消耗は個人の弱さではなく、職場の条件と結びついて起こります。
当てはまった人は、次の「休む」の章を先に読んでください。
「向いていない」と決めつけるのは早い
ミスが怖い、
覚えが遅い、
といった理由で「向いていない」と結論づけるのは早すぎます。
ミスの起こりやすさは、本人の能力だけでなく職場の忙しさにも左右されるからです。
2013年の報告では、患者が集中する10時から11時59分の事例が2,195件と、ほかの時間帯を大きく上回りました。
出典:薬事日報「社説 ヒヤリ・ハット防止、日ごろから努力を」
患者対応が苦手という悩みも、経験の量や教わり方で変わる部分が大きい領域です。
「向いていない」と感じたら、その場面が人手の足りない時間帯に集中していないかを振り返ってください。
環境が原因なら、移る先を選ぶことで解決できます。
薬剤師として働きたくないほど限界なら、決める前に休む

心身の消耗が強いときは、転職や退職を決める前に休むことを優先しましょう。
休むべきサイン、
休職中のお金を支える傷病手当金、
回復後の考え方
の3点がこの章の内容です。
比べたり決めたりするのは、回復してからでも遅くありません。
休んだほうがいい心と体のサイン
次のようなサインが続いているなら、気合いで乗り切る段階を過ぎています。
決断より先に、休むことと専門家への相談を考えてください。代表的なサインは次の4つです。
- 寝つけない、夜中に何度も目が覚める日が続いている
- 出勤前に動悸や腹痛が起きる、涙が出る
- 休日も仕事のことが頭から離れず、回復した感覚がない
- 好きだったことに興味がわかない
こうした状態が2週間以上続くなら、心療内科や精神科、職場の産業医(従業員の健康管理を担う医師)への相談をおすすめします。
相談先に迷う場合は、厚生労働省の働く人向けメンタルヘルス・ポータルサイト「こころの耳」で窓口を探すのが近道です。
受診することは、弱さの証明ではありません。
出典:厚生労働省「こころの耳 働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト」
休職中は傷病手当金で生活を支えられる
会社の健康保険に入っていれば、休職中の生活は傷病手当金で支えられます。
傷病手当金とは、仕事以外の病気やけがで働けないときに、健康保険から給与のおよそ3分の2が支給される制度です。
連続した3日間の待期(支給が始まる前の待機期間)のあと、4日目から支給の対象となり、待期には土日などの公休日や有給休暇も含められます。
受け取れる期間は通算1年6か月で、1日あたりの額は直近12か月の標準報酬月額(保険料計算の基準となる月給の区分)の平均を30で割り、3分の2を掛けた金額です。
退職後も、退職日までに1年以上加入し、退職日に傷病手当金を受けているなどの条件を満たせば受け取り続けられます。
国民健康保険にはこの制度が原則としてないため、退職前に会社や健康保険の窓口で手続きを確認してください。
出典:全国健康保険協会「傷病手当金」
比べるのは回復してからで間に合う
休んでいる間に転職先を決める必要はありません。
比べる作業は、眠れて食事がとれる状態に戻ってから始めれば十分だからです。
休職できる期間は会社の就業規則で決まっており、数か月から1年以上まで幅があります。
回復の途中で求人を眺め続けると、焦って条件の合わない職場を選ぶきっかけにもなります。
休む前とは違う原因が見えてくる場合もあります。
職場や業態が原因だとわかった段階で、「次の一手」の章へ進んでください。
薬剤師として働きたくない原因がわかれば、次の一手は決まる

原因ごとに、選ぶべき次の一手は変わります。
職場、
業態、
仕事そのもの、
働く量
の4つのケース別に具体策をまとめました。
最後の比較表は、
・移った先で解消すること
・残ること
・増えること
を確かめるためのものです。
職場が原因なら、同じ業態のまま職場を変える
原因が人間関係や店舗の忙しさなら、業態は変えずに職場だけを変えるのが最も負担の少ない方法です。
年収や経験を保ったまま、つらさの中心を取り除けます。
同じ調剤薬局でも、薬剤師1人あたりの処方箋枚数や急な欠勤に備えた人員の余裕は職場ごとに大きく違います。
見学や面接では、休憩が実際に取れているか、新人が質問しやすい雰囲気かを確かめてください。
移った先での最初の関係づくりも、人間関係の立て直しには欠かせません。
人間関係でつまずいた経験がある人ほど、最初の1か月の関わり方を準備しておくと安心です。
初日の挨拶や声かけの工夫は、別の記事で紹介しています。
業態が原因なら、薬局・病院・ドラッグストアを移る
どの店舗でも同じ要素がつらいなら、業態を変えると負担の種類そのものが変わります。
薬剤師の資格と経験を活かしたまま、働く環境を大きく変えられるのが利点です。
販売目標がつらいなら調剤中心の薬局や病院、
夜勤がつらいなら日中だけ営業する調剤薬局、
というように、嫌な要素がない業態を選びます。
ただし給与水準には差があり、厚生労働省の資料では、新卒の標準的な初任給が病院で372.7万円、薬局で415.3万円でした。
ですから、病院へ移る場合は、年収が下がる可能性を見込んでおいてください。
経験のない業態の実態は求人票だけでは判断しにくいため、働いている人の話や転職エージェントの情報が役立ちます。
面接で「なぜこの業態を選ぶのか」を説明できるよう準備しておくと有利です。
仕事そのものが原因なら、企業や異業種も視野に入れる
調剤や患者対応そのものが合わないなら、薬の知識を別の形で使う企業の仕事が選択肢になります。
薬と関係のない異業種へ移る道もありますが、年収とキャリアを一から組み直す覚悟が必要です。
企業で薬剤師の知識を使う代表的な仕事には、次のようなものがあります。
| CRA(臨床開発モニター) | 治験(新薬の承認を得るための臨床試験)が計画どおりに進んでいるかを医療機関で確認する仕事 |
|---|---|
| CRC(治験コーディネーター) | 医療機関側で治験の参加者や医師を支える仕事 |
| DI(医薬品情報) | 医療従事者からの問い合わせに答え、薬の情報を管理する仕事 |
| 薬事 | 医薬品の承認申請や法律への対応を担う仕事 |
企業への転職はほぼ未経験として扱われ、最初の年収が下がる例も少なくありません。
補助的な職種で経験を積んでから専門職を目指す、2段階の進み方が現実的です。
企業の求人は数が限られるため、企業に強い転職エージェントで最新の募集状況を確かめておくと動きやすくなります。
働く量がつらいなら、パートや派遣で減らす
仕事内容は嫌いではないのに量がつらいなら、パートや派遣で働く時間を減らす方法があります。
勤務日数や時間を選べるため、心身を休める時間を確保しながら経験を途切れさせずに済むのが利点があるからです。
派遣は契約期間が決まっており、合わない職場なら契約を更新しない形で離れられます。
一方で、賞与や退職金がない契約も多く、年収で比べると正社員より下がる場合があります。
派遣で働ける職場は、主に調剤薬局やドラッグストアです。
派遣の面接で聞かれることと答え方は、別の記事で詳しく解説しています。
移る先ごとに解消すること・残ること・増えること
どこへ移っても、つらさがすべて消えるわけではありません。
解消すること、残ること、新しく増えることを先に知っておけば、「こんなはずではなかった」を防げます。
| 移る先 | 解消しやすいこと | 残りやすいこと | 新しく増えやすいこと |
|---|---|---|---|
| 別の調剤薬局 | 特定の人間関係、 店舗の忙しさ |
待ち時間への苦情、 調剤ミスの緊張 |
新しい職場に慣れる負担 |
| 病院 | | | | | 販売目標、 待合室での苦情 |
調剤や監査の緊張 | 夜勤・当直、 勉強会、 年収の低下 |
| ドラッグストア | 年収面の不満 | 調剤の緊張、 患者対応 |
レジ・品出し、 販売目標、 長い営業時間 |
| 企業(CRA・DIなど) | 患者対応、 立ち仕事、 土日勤務 |
正確さへのプレッシャー | 学び直し、 年収の一時的な低下、職 種によっては出張 |
| パート・派遣 | 長時間労働、 責任の重さ |
調剤業務の緊張 | 賞与・退職金の減少、 収入の変動 |
表は一般的な傾向をまとめたもので、職場ごとの差は大きいのが実情です。
気になる行があれば、その点を面談で質問する項目に加えてください。
個別の実態を確かめる方法は、次の章で解説します。
薬剤師として働きたくないときは、転職エージェントで判断材料を集める

転職エージェントは、転職を決めた人だけのサービスではありません。
求人票に載らない職場の実態を集める道具として使えば、辞めるかどうかを決める前の判断材料になります。
この章では、聞くべき質問、無料で使える仕組みと断り方、目的別の選び方、向いていない人の特徴を紹介します。
求人票に載らない職場の実態を比べられる
転職エージェントを使う最大の利点は、求人票では見えない職場の実態を事前に知れることです。
今の職場が普通なのか?厳しいのか?
それは、ほかの職場と比べて初めてわかります。
一般に公開されない非公開求人(応募の殺到を避けるため、エージェント経由でのみ紹介される求人)を紹介してもらえる点も特徴です。
登録しても、転職する義務は生じません。
相場を知るためだけに使い、今の職場に残ると決める人もたくさんいます。
比べた結果「意外と今の職場はまだ恵まれていた」とわかれば、それも立派な判断材料です。
面談で聞いておきたい5つの質問
面談では、質問を用意しておくほど引き出せる情報が増えます。
次の5つは、職場の忙しさと人間関係を見極めるのに役立つ質問です。
- 1日の処方箋枚数と、薬剤師・事務員の人数
- 薬剤師が1人だけになる時間帯があるか
- 直近1年で辞めた人の数と、その理由
- 休憩や有給休暇が実際に取れているか
- 新人や転職者への教育の流れ
答えがあいまいな項目は、職場見学の機会に自分の目で確かめてください。
回答をメモして複数の職場で比べると、今の職場の位置づけがはっきりします。
質問するのは失礼ではなく、入職後のミスマッチを防ぐための正当な確認です。
無料で使える仕組みと、求人の断り方
転職エージェントは、求職者からお金を受け取りません。
採用が決まったときに、採用した薬局や病院、企業から紹介手数料を受け取る仕組みで運営されているからです。
仕組み上、担当者から採用の決まりやすい求人を勧められる場合もあります。
希望と違う求人は、理由を添えて断って問題ありません。
勤務中の電話が心配なら、登録時に「連絡はメール中心で」と伝えてください。
担当者と合わないと感じたら、担当の変更を申し出る方法もあります。
目的別に選ぶ薬剤師転職エージェント
転職エージェントは1社に絞らず、目的に合う2〜3社を比べて使うのがおすすめです。
担当者との相性や得意な求人は会社ごとに違うため、1社だけでは偏りに気づけないからです。
各社の求人数、得意な業態、対応エリア、面談方法を比べたうえで登録先を選んでください。
登録後は、5つの質問を使って各社の担当者から情報を集めます。
比べること自体が、自分に合う担当者を見つける作業になる点も利点です。
転職エージェントが向いていない人
薬と関係のない仕事へ移りたい人には、薬剤師専門の転職エージェントは向いていません。
薬剤師専門のサービスは、薬局や病院、ドラッグストアの求人が中心だからです。
異業種を目指すなら、業界や職種を問わず求人を扱う総合型の転職サービスのほうが選択肢を広げられます。
心身の消耗が強く、休む必要がある人も、今は登録する時期ではありません。
大切なのは、サービスに判断を任せず、集めた情報をもとに自分で決めることです。
向いていない人の特徴を知ったうえで使えば、エージェントを判断材料集めの道具として活かせます。
薬剤師として働きたくないのに辞められない理由は、制度と準備で軽くできる

辞めたいのに辞められない理由の多くは、
・奨学金
・年収
・親への説明
・免許の扱い
の4つです。
この章では、それぞれを軽くする公的制度と事前にできる準備を紹介します。
薬学部5・6年生の35%が奨学金を利用し、返済総額の平均は650万円というデータもあり、お金の不安はあなただけの悩みではありません。
奨学金は減額返還や返還期限猶予を使える
日本学生支援機構の奨学金には、返還が苦しくなったときに月々の負担を減らしたり、返還を待ってもらったりする制度があります。
収入が大きく下がったときや病気で働けないときの支えになります。
減額返還制度は、毎月の返還額を2分の1や3分の1などに減らし、その分だけ返還期間を延ばす制度です。
給与所得者なら年収325万円以下などが目安で、最長15年まで適用できます。
病気による猶予は、その状態が続いている間は申し出られます。
反対に、転職で年収が下がっても325万円を超えていれば経済的な理由の基準には当たらないため、制度に頼る前提の計画は立てないでください。
出典:日本学生支援機構「返還期限猶予」
奨学金の返還を支援する病院や自治体もある
薬剤師が不足する地域の病院で働くと、奨学金の返還を自治体や病院が支援してくれる制度があります。
業態や地域を変える選択と、お金の不安を同時に解決できる方法です。
茨城県では県が返済額の2分の1(月2.5万円まで)を補助し、病院からも同額以上の支援が受けられる仕組みです。
出典:宮崎県「薬剤師奨学金返還支援事業の概要」(2025年)
出典:茨城県「茨城県病院薬剤師奨学金返済支援事業のご案内」
どちらも、宮崎県なら3年以上、茨城県なら支援を受けた期間の1.5倍の勤務といった条件があります。
途中で辞めた場合の扱いは制度ごとに異なるため、応募前に要項を必ず確認してください。
こうした求人は数が限られるため、転職エージェントに「奨学金返還支援のある病院」と条件を伝えて探してもらうのが近道です。
返済と生活が回る年収の下限を知っておく
年収が下がることへの不安は、生活に必要な最低ラインを数字にすると小さくなります。
下限がわかれば、移る先の条件をその数字で判断できます。
計算の手順は次の3つです。
- 家賃、食費、光熱費、通信費など毎月の生活費を合計する
- 奨学金の返済など、毎月必ず出ていくお金を足す
- 合計に12を掛け、税金と社会保険料の分を見込んで1.3倍前後にする
生活費18万円と奨学金3万円なら、21万円×12か月×1.3で、年収の下限は約328万円となります。
厚生労働省の賃金統計をもとにした薬剤師の平均年収は約599万円のため、下限との差が転職で動かせる余白です。
この下限を満たす求人があるかは、転職エージェントに条件として伝えれば効率よく確かめられます。
親には「資格の使い方を変える」と伝える
学費を出してくれた親には、「薬剤師を辞める」ではなく「資格の使い方を変える」と伝えてください。
辞めたあとの見通しを先に示せば、親の反応は感情的な反対から具体的な質問に変わりやすくなります。
話す順番は、
・決めたこと
・理由
・その後の計画
の3つにすると伝わりやすくなります。
「人手不足でミスが怖い職場を離れ、調剤中心の薬局で経験を続ける」のように、資格を手放さない計画なら納得を得やすい形です。
免許は失効しないことや奨学金の返還計画を立てていることを数字とともに伝えると、反対の理由が減ります。
反対されても、最終的に決めるのはあなた自身です。
話す前に、この章の内容をもとに自分の計画を固めておいてください。
免許に更新はないが、2年ごとの届出は続く
薬剤師免許に更新の手続きはなく、働いていない期間があっても免許は有効です。
ただし、薬剤師法第9条にもとづく2年ごとの届出は、薬剤師として働いていなくても義務として続きます。
届出とは、12月31日時点の就業状況などを厚生労働大臣に報告する手続きです。
届け出ないと、医師等資格確認検索システム(薬剤師などの資格の有無を確認できる厚生労働省のサイト)に氏名などが掲載されません。
2年ごとの仕組みのため、2026年は届出の年に当たり、12月31日時点の状況を2027年1月15日までに届け出ます。
医療機関や薬局に勤めていない人は紙の届出票を保健所に出す形になるので、離職中の人は住所地の都道府県の案内を確認してください。
出典:愛知県「医師・歯科医師・薬剤師による2年に一度の届出について」
出典:茨城県(厚生労働省リーフレット)「医師・歯科医師・薬剤師の資格をお持ちの皆さまへ」
出典:和歌山県「薬剤師の届出」
少ない日数で働けば、戻る道を残せる
薬剤師の仕事から完全に離れず、少ない日数でも続けておくと、戻る道を残せます。
ブランク(現場を離れていた期間)が短いほど、新しい薬や制度の変化に追いつく負担が小さいからです。
企業や異業種へ移った場合も、勤務先が副業を認めていれば、週1日のパートで調剤の感覚を保てます。
育児や休養で完全に離れる時期があっても、研修や書籍で知識を更新しておくことが復帰のハードルを下げる鍵です。
復帰前の学び直しに役立つ本は、別の記事で紹介しています。
ブランク明けの薬剤師向けに研修制度を設けている薬局もあるため、復帰先を探すときは教育体制も確認してください。
戻れる道があるとわかっていれば、離れる決断も重く考えすぎずに済みます。
薬剤師として働きたくないのが1年目でも育休明けでも、考え方は同じ

1年目、働き始める前、育休明けと立場が違っても、原因を切り分けてから決めるという考え方は変わりません。
ここでは、立場ごとに抱きやすい疑問と辞めて後悔する人がいるか、転職エージェントの利用が職場にばれるかに答えます。
気になる質問から読んでください。
1年目で辞めたら転職で不利になる?
1年目で辞めても、それだけで次の職場が見つからなくなるわけではありません。
不利を小さくする鍵は、辞める理由と次の職場を選ぶ理由を一貫して説明できることです。
チェックリストで、つらさが経験の浅さから来ているのか、職場の環境から来ているのかを見極めてください。
働き始める前から働きたくないのはおかしい?
働き始める前から働きたくないと感じるのは、おかしなことではありません。
実務実習(薬学部5年次に薬局や病院で行う実習)で見た忙しさや、国家試験までの疲れが残っていれば、不安を感じるのは自然な反応です。
入職前なら、内定先に配属先や教育体制を確認する、パートや派遣で短く始めるといった形で負担を調整できます。
育休明けに戻るのが怖いときはどうする?
育休明けの不安は、時短勤務(1日の勤務時間を短くする働き方)や勤務日数の調整で小さくできます。
復帰前に、職場と勤務時間や担当業務をすり合わせておいてください。
今の職場で調整が難しいなら、子育て中の薬剤師が多く働く職場を探すのも一つの方法です。
薬剤師を辞めて後悔する人はいる?
辞めて後悔する人もいますが、転職して満足している人も多くいます。
後悔を防ぐ鍵は、原因と条件を整理してから動くことです。
一方で、年収が下がった、同じ悩みが続いたという後悔もあるため、移る前に比較表と年収の下限を確認してください。
出典:PR TIMES「薬剤師が辞めたほうがよい職場はどんなとこ?薬剤師100人にアンケート調査」
転職エージェントに登録したら職場にばれる?
転職エージェントに登録しただけで、今の職場に知られることは基本的にありません。
職業紹介事業者(転職エージェントのように求人と求職者を仲介する事業者)には、職業安定法で個人情報を適正に扱い、業務上知った秘密を守る義務が課されています。
・職場のパソコンで求人を見る
・同僚に話す
といった自分の行動です。
不安な人は、登録時に連絡方法をメールに指定し、面談を勤務時間外に設定してもらってください。
【まとめ】薬剤師として働きたくないなら、今週やることは3つだけ
薬剤師として働きたくない気持ちは、甘えではなく、何かを変える必要があるというサインです。
辞めるか耐えるかを今すぐ決めず、今週は次の3つだけ進めてください。
- 嫌なことを書き出し、職場・業態・仕事そのもの・消耗の4つに分ける
- 生活費と奨学金の返済から、年収の下限を計算する
- 転職エージェントで、今の職場と外の職場の実態を比べる
退職日や転職先、薬剤師を続けるかどうかは、今週決める必要はありません。
心身の消耗が強い人は、3つより先に休むことを優先してください。
比べる材料がそろえば、どの道を選んでも「自分で選んだ」と言える決断になります。
仕事から帰った夜、ふと「薬剤師になんかならなきゃよかった」と感じたことはありませんか? そんな自分を「甘えているだけかも」と責めているのかもしれません。 実は、その後悔の正体は薬剤師という職業そのものではなく、「今の働き …







